悲鳴のようにも聞こえる暴風。

 体を叩く大粒の雨。

 その中に、確かに。

「父さ───ん!!」

 愛息子の、声が。

「父さ──ん!! ここ、だよ──!!」

 濁流の中に目を凝らす。

 いた。

 ぼんやりと白いものが見える。そこから声が聞こえる!

「な……何をやってるんだお前は──!!」

 アリアが怒鳴りながら走る。

「フェイ、待ってろ!」

 ランスも走りながら、後ろからついてきていたニクスが持っていたロープを奪い取り、体に巻きつけ、ロープの端をアリアへ渡した。

「頼む」

「任せろ。だが一発勝負だぞ、絶対に掴め」

「分かってる」

 この先はテーゼ川との合流地点だ。この勢いで大河まで流れ着いたら、沈み込んで浮かび上がることは不可能。ここで助けられなかったら終わりだ。ランスはフェイレイの流れる先まで全速で走り、躊躇うことなく濁流の中へ飛び込んだ。

 すぐにロープは伸びきり、物凄い力で引っ張られた。ぬかるんだ地面に足を滑らせながら、なんとか踏ん張るアリア。

「なんだ、どうした!」

 ニクスがケーラを背負いながら駆けつける。

「フェイレイが落ちた。ランスが助ける」

「なんじゃと、フェイ坊が? 何をやっとるんじゃ、こんな外に一人で出して!」

「分かっている! ニクス、力を貸せ!」

「ああ! ばあさん、逃げんなよ!」

「逃げるかいこの大事に! ああフェイ坊、しっかりするんじゃ、しっかり掴まれえええー!」

 アリア、そしてニクスが祈りながらロープを掴む。その横でケーラが声を枯らすほどに叫び続ける。





 川に飛び込んだランスは抗えない水流に翻弄されていた。

 分かってはいたが、想像以上に思い通りにならない。流木やなにかがゴツゴツと身体を弄る。それでも歯を食いしばり、なんとかフェイレイが流れてくる方向へ体を向け、そこで手を広げた。

「フェイ、こっちだ!」

 流れてくる白いものに向かって怒鳴る。白いものは一瞬沈んだが、また浮上した。どうやら川の精霊リーブが沈まないように手を貸しているらしい。召喚されないままに力を使えば、彼女たちの命が削れるというのに。

「すまないっ……」

 謝りながら、迫ってきた息子の体を掴み取る。