『ふふ、アリアは甘えん坊さんだなぁ』

「どっちが! お前だろう、甘えん坊は!」

『そうだね、だけど我慢しているんだよ、君が忙しいから』

「ふん、いい子にして待っているということか」

『そうそう。いい子にしているから、早く会いたいな』

 本音を混ぜ込んだ軽いやり取りの後、しばし見つめ合う。そしてアリアはランスの立体映像に手を伸ばし、ランスもまた、アリアの方へ手を伸ばした。

 指先が、宙でそっと触れ合う。

 無論、本当に触れ合っているわけではない。触れ合っているようには見えるが、それはただの映像だ。

「迎えに行かせる。こっちに来い、ランス」

『そっちは人が多すぎる。……とても抑えておけない』

 そんなに、とアリアは唇だけを動かした。それからぐっと歯を食いしばり、頷く。

「……そうか」

 そうして伸ばされているランスの手を、握り込むように指を折り曲げた。ランスも同じように指を織り込み、アリアの手を包み込む。

 なんの温度も、感触も感じられないただの映像。

 だがしかし、互いを思いやる温かさは間違いなく、絡まった指から伝わっていた。そのぬくもりが心を開いたのか。ランスから本音が吐き出される。

『アリア……俺、誰もいないところへ行きたいんだ。もうアストラにいるのも辛い。友人たちが訪ねてくるのが、辛い』

 殺してしまいそうになる、と。ランスは手を震わせた。

 アリアは繋ぎ合わせた手を、ギュッと握りしめる。

『君に殺されたい』

「まだ駄目だ」

 咄嗟にアリアはそう言った。

「本当にその時が来たら、間違いなく私が殺してやる。だから……まだ、駄目だ。今はその時じゃない。今はお前の死ぬ時じゃない」

 魔族が増えて、天災が起きそうだというこの時期に。

 皇都で何か起きているかもしれないこの時期に。

 子どもたちを護ると誓った自分たちは、揃って彼らの障害の前に立ち塞がらなければならないのだ。

 そんなアリアの気持ちが伝わったかのように、ランスは笑みを浮かべた。