『ああ、元気だよ』

 穏やかな声が返り、アリアはほっとする。しかしチラリと夫の顔を見やって、軽く心臓を跳ね上げた。

「……眠れているか?」

 立体映像として浮かび上がるランスの顔は鮮明ではなく、緑色の霧がかっているように映っている。それでもはっきりと分かるほどにはやつれていた。……昨日よりも、ずっと顔色が悪い。

『魔族が増えているからね。ちょっと忙しくて』

 はは、とランスは軽く笑った。

 しかしそれは嘘だった。ランスはもうずっと自警団の見回りを休んでいる。──もう、ほとんど動けない状態だった。リディルにずっと会えていないことも体調悪化を助長しているのかもしれない。血に眠る破壊者の力が日に日に増し、何度も何度も夢の中に堕ちそうになっては、心の奥に残された僅かな光を頼りに起き上がる、というのを繰り返している。

 けれどもランスはそんなことは一言も言わずに、ただ妻へ優しい瞳を向けた。

『フェイとリディルも忙しくしているんだろう? 今は二人だけで任務に出ていると言っていたけど、怪我なんかはしていないかい?』

「報告に来るときはいつも元気だ。あいつらはセルティアギルド一の戦士だからな、心配ない。だが、お前は……」

『アリアもちゃんと眠れているかい? 心配事が絶えないけれど、少しでも休んでね』

 アリアの言葉を遮ってまで、家族の心配を口にするランス。

 わざとだな、とアリアは溜息をつく。

 それほど体調が悪いのか。

 そんな夫の傍に、どうしていてやれない。

「ランス。最近眠れないから添い寝しに来い」

 書類整理に目が疲れたフリをしながら、浮かび上がりそうになる涙を指先で抑え込む。