「……十年前のデータを今すぐ回せ」

 その言葉に、会議室中が騒めいた。

「今出します」

 そう答えたのは秘書のブライアンだ。すぐにアリアの目の前にある、宙に浮かんだ緑色のモニターに数字とグラフが映し出される。

「これが十年前のデータです。これに今年のデータを重ねます」

 モニターにそれが映し出されると、あちこちから呻き声が漏れた。

「……これに対する見解は」

 アリアの問いに、ブライアンは眼鏡をくいっと持ち上げながら、低い声で答えた。

「二か月後には天変地異が起きる計算です」

 室内が更にどよめく。

 アリアも眉間に皺を寄せてモニターを眺めた。

 十年前と何もかもが重なり合う魔族の増加。そして精霊の減衰。このままいけば十年前の二の舞だ。

「魔族討伐隊を組織しろ。国境付近の見張りも強化」

「支部長、人が足りません」

「国防軍と連携しろ。何のために今まで国防軍に人を派遣してきたのだ。こんなときのためだろう」

「……は、今すぐに」

 ブライアンがパソコンに向き合うと、すぐに他の者たちも組織編成のための会議に移っていった。

 アリアはモニターを見つめながらギュッと手を握りしめる。

 十年前、突然増え始めた魔族。軍隊となって街を襲い、人を襲い。嵐の中命がけでこの国を護ろうとしていた自分たちの姿がまざまざと蘇る。

 あの時も原因は分からなかった。

 何が原因で戦いが引き起こされたのか、そして何が原因で戦いが収束したのか。何一つ疑問は解決されていない。

 今回の天変地異の前触れと、どう関係があるのか。

 アリアが考え込んでいると、ふと、手首につけている通信機がチカチカと光を発した。