「いやいや、ランスさんがいてくれて助かったよ」

「ここのところ畑に入ってくる魔族が増えて……困ったもんだよ」

「ミスケープの方もそうなんだって?」

「畑だけじゃなくて人も襲われてるみたいだよ」

「なんだってこんな大事な時期に……。迷惑な話だよ」

 村人たちの話を耳に入れながら、ランスは大剣を背中に戻した。……ここ最近魔族が増えている。自警団の見回りも強化され、ランスも忙しくしているところだ。

 だがこうして剣を振るうと、我を忘れそうになる。護るために身に着けた剣技で、何の罪もない人々を手にかけそうになる。

 滴り落ちる汗を拭い、ランスは同じく見回りをしているニクスを振り返った。

「ニクス……悪い、少し体調が良くない」

「あ? ああ、確かに、ここのところ顔色良くないよな。大丈夫か? アリアに連絡しようか?」

「そこまでは大丈夫だよ。ただ、巡回を少し休ませて欲しい」

「分かった。正直お前に抜けられると痛いんだ。早く治せよ?」

「うん、ありがとう」

 言いながら、家に向かって歩く。

 そして謝る。

 恐らく、もう復帰出来ない。

 この胸の中でとぐろを巻く憎悪が今にも暴れ出しそうだった。もう、抑えていられない。





 フラつきながら家の中に入り、背負っていた大剣を壁に立てかける。ぐったりとソファに身を沈めると、そのまましばらく動けくなった。

 妻と、息子。そして娘の顔を順番に思い浮かべ、ゆっくりと呼吸を取り戻す。

 目を開けると、テーブルの上に乗せたままだった腕時計型の通信機が目についた。何故こんなところに出しっぱなしにしていたのか。少し考えて、思い出す。

 そういえば先日ガルーダ班長が、南の大陸へ渡っていった昔馴染みのところに遊びに行くと連絡を寄越したのだった。

 ガルーダはフェイレイのパーティ班長就任を見守った後、傭兵家業を引退した。今後はアリアと同じ執行部の人間としてギルドを支えていくようになる。その前にちょっとした旅行をしたいと有給を取っていたのだ。