春の冷やりとした夜風を受けながら、明るい笑顔でそう語る息子にランスは目を細めた。

 ジリジリと湧き上がる熱を呑み込んで、ゆっくりと頷いた。

「それは素敵な未来だな。……父さん、たくさんの孫に囲まれて暮らすのが夢なんだよ」

「そっか。一応、子どもは二人の予定だよ。一人は俺と同じ赤い髪の女の子で、もう一人はハニーブラウンの髪の男の子。いや、逆でもいいかな。とにかくかわいい子たちだよ。それでリディルと一緒に……」

 そこまで言って、フェイレイは慌てて口を塞いだ。

「いや! なんでも! なんでもない! 俺何も言ってないから!」

「ふふ、じゃあ聞こえなかったことにしておこう。護りたいもののために努力しているフェイは、立派な『勇者』になれるね」

「え? う、うん、頑張ってるところだよ。結婚するまでにはそうなるよ」

「うん」

 ランスは笑いながら頷き、グラスを傾けた。しかし僅かな滴が唇を濡らすだけだった。

「……ごめんフェイ、おかわりが欲しいな」

「あ、うん。貰ってくるよ」
 
 フェイレイはすぐに立ち上がり、空になった酒のボトルを持って家の中に入っていった。

 その足音を聞きながら、ランスは空を見上げた。

 少しだけ欠けた月が、濃紺の夜空に滲む。

 ゆらゆら揺れる月から逃れるように、ランスは片手で両目を覆った。

「本当に素敵な未来だ」

 ジリジリと込み上げてくる熱を溶かした、涙が眦から零れ落ちていった。