空よりも高く 海よりも深く

 夕食後、ランスとフェイレイはリビングに面したテラスへと移動していき、後片付けはアリアとリディルが引き受けた。

 桶に溜めた水でリディルが皿を洗い、それをアリアが受け取って拭き、棚へしまう。何でもない一連の動作が実に親子らしいと、アリアはこの時間が好きだった。

「マイアの披露宴に行くとなるとドレスを用意せねばならんな。ギルドに戻ったらすぐにフェイと一緒に洋裁店に行くぞ」

「分かった」

「今の流行りはデコルテを見せるデザインだったな、確か」

 アリアも立場上、色んな社交場に出る。その際、女性たちのドレス姿を見ることも多かった。

「……そうなの」

 リディルはあまり関心のないような声を出したが、チラリと自分の胸を見下ろしていた。

「どうした?」

「……ううん」

 そう言いながらリディルはアリアをチラリと盗み見た。

 アリアはその視線に気づいていたが、その意味には気付くことが出来なかった。当然である。アリアは小さい体の割に大きな山の持ち主だった。胸に対して劣等感など抱いたこともない。むしろ拳一つで闘う彼女には邪魔なくらいだ。

 対してリディルは17歳になろうとしているのに、まだかわいらしく膨らんできたところ。劣等感の塊だった。

「それにしても、結婚か……。もうそんな年なのだな」

 小さくため息をつく娘の気持ちになど気づかず、アリアはポツリと零した。

 16歳。

 もう、いつ嫁に行ってもおかしくない年頃となった。娘が他家に嫁ぐことを想像するだけで涙が出そうになる。

「リディル。お前はもう、決めた相手はいるのか?」

「いないよ」

 素っ気ない返事だ。

 アリアは天井を見上げた後、チラチラとリディルを見た。

「お前にいい話がないでもないんだが」

 リディルは皿を洗う手を止め、アリアへ顔を向けた。美しい翡翠色の瞳が、ぱちりと見開かれている。