昏い感情に支配される前に、ランスはテーブルの上の模型に手を伸ばした。

 ここ最近ランスは暇を見つけては、こういった細々とした玩具(モノ)を作っていた。元々手先が器用で、アリアの苦手な裁縫も代わりにやっていた彼だが、最近手にするのはより無機質なものだった。

 今手にしている模型もそうだが、パソコンや通信機など、無機質なものを相手にしている方が、より破壊の衝動を抑えていられた。

 命あるものに憎しみを持つ自分の中の破壊者。そのせいなのかもしれない。

 模型を手にしながら、ランスは立ち上がる。

 遠くの空から、本物の飛行艇のエンジン音が響いてきていた。




「父さんただいま!」

 元気良く声を張り上げながら玄関を開けたのはフェイレイだ。

「お帰りフェイ、リディル」

 ランスは両手を広げて彼らを迎え入れる。先にやってきたフェイレイと軽く抱擁を交わすと、フェイレイのすぐ後ろにいたリディルとも抱擁を交わす。

 子どもたちの笑顔を見るとほっとした。

 そして何故か、破壊者の血が成りを潜める。アリアと二人きりのときには襲い掛かってくる暴力的な思考。けれども子どもたちと──正確にはリディルと一緒にいるときだけは、ランスは落ち着いていられた。

 精霊に愛されし皇女には破壊者も手出し出来ない、ということなのだろうか。

 だとしたら安心だ、と思う。

 このままフェイレイにリディルの護衛騎士としての任務を課しても、リディルにだけは害を及ぼさない。リディルの方でもフェイレイの中にある血を抑えてくれるかもしれない。そう、ランスは希望を持っていた。

「あれ、飛行艇? 父さんが作ったの?」

 リビングのテーブルに置いてある飛行艇の模型を見つけたフェイレイが、目を輝かせながらそれを手にする。