ざあざあと耳を劈く砂嵐の音。目の前にモノクロの世界を映し出すスクリーン。

 そこから彼は笑いかけてくる。

 ランスと同じ顔をした彼は、折り重なって山となった肢体の上に座り、愉悦の笑みを浮かべながらランスを見下ろしている。

『ねえ、そろそろ観念したらどうなんだい?』

 彼は言う。

『私を受け入れればいい。それだけで世界が変わる。苦しまなくて済む』

 ランスは彼が踏みつけている肢体を見る。妻に、子どもたちに、村人たちに、かつての戦友たち。もう亡くしたはずの両親の姿さえある。

 彼らは動かぬ体となって横たわる。

 物言わぬ彼らは、とうとうと冷たい血を流し続ける。スクリーンの中にいる彼の、荒廃した世界を目にすることなく、もう絶望することもなく。けれどもその美しかった瞳には、何も映し出すことなく。

 赦されることではない。

 ランスはまだ、それを赦したくはない。

「だから」

 ランスは重い口を開く。

「俺は、まだ、苦しんでいたい」

 ランスの愛する人たちが、あの世界で笑っている限り。





 ふと顔を上げると、プロペラのついた飛行艇の模型が、動力を失くしてすいっとテーブルの上に滑っていくところだった。窓から漏れる陽の光に、白い翼が眩く輝いている。

 意識が飛んでいた。こんな真昼から夢の中に引きずり込まれるようになった。そろそろ“この血”を抑え込むのも限界に近いのだろうか。

 そうなったら衝動に呑み込まれる前にアリアの手で楽にしてもらえればいい。あの夢の中のように、愛する者たちが重なり合って血を流す、そんな光景を作り出す前に……自分の手にかけてしまわないうちに……血を流すのは、自分でなくては……。