亡き義父に託された皇女殿下。

 それを護ろうとしているエインズワース一家。

 見つかったらリディルとともに皇都に連行されるか、その場で処刑される。そうさせないために、息子を優秀な精霊士として育てる決意をしていた彼らは、息子の魔力量の少なさに絶望したのか。

 これでは皇女を護るどころか、幼い我が子の命が奪われてしまう。そんなことはさせられない、何とかして護らなくては。……子を護ろうとするのは親としての真理だ。アリアにも痛いほどにその気持ちが分かった。

 だが、その厳しい横顔を見たとき、アリアははっとさせられたのだ。

「……ビアンカ、思い詰めるな」

 力の入った彼女の手をそっと握る。

「怖い顔をしている。そんな顔をしていれば息子に伝わるぞ。ヴァンガードは何も知らんだろう」

 アリアたちもビアンカたちも、子どもたちには何も伝えていない。何も知らない方が逃れやすいからだ。

「ええ、分かってはいます。ですが……最近の通信産業の発展を見ていると、覚悟をしなければと、思っています」

 自分の手に乗せられたアリアの手に、更に手を重ねて、ビアンカは弱々しく微笑んだ。

「息子だけは、護らねば」

「……ビアンカ」

「お話を聞いてくださってありがとうございます、支部長。ランス殿のことで何かあれば遠慮なくおっしゃってください。貴方がたにいただいた大恩に比べたら、治癒魔法をかけることなど容易いことですので」

「ああ……ありがとう」

「それではお先に失礼致します」

 立ち上がり、皿の乗ったトレイを持って去っていくビアンカの背中を見送る。

 元々ほっそりとしていたが、少し痩せたように思う。