「ビアンカも何だか浮かない顔だな。どうした」

「……ええ。息子のことで、少し」

「ヴァンガードか。魔銃士養成学校に入学していたな」

 精霊士ではない。

 そこが問題なのかと、アリアはチラリと視線を横に向ける。厳しい面差しをしたビアンカが、今にも殺しそうな目でムニエルを刻んでいた。

「……申し訳ありません。かのお方の護衛として、立派な精霊士として育てようと思っていたのですが、あの子は……魔力が、足りなくて」

「しかし、まだ7歳だろう。伸びしろがある」

「いいえ、分かるのです。成長の見込みはありません。エインズワース家に、あのように魔力の低い子が生まれるなんて。……お義父様もヴァンガードが生まれたときにはとても喜んでくださっていたのに。跡取りが生まれたと、期待されていたのに。……私の、私の責任です」

 ビアンカのナイフとフォークを握る手が震えている。

「……貴様も随分魔力量の多い、優秀な精霊士であろうに」

 アリアは頬杖をつきながら、皿に残ったパスタをグチャグチャとかき回す。

「子どもに責任はない。もちろん、親にも」

 かき回しながら、アリアは言った。自分の口から出た言葉が自分に跳ね返ってくる。

 ……自分のせいでも、ランスのせいでも、ましてやフェイレイのせいでもない。破壊者の血筋に生まれてきた。それは誰のせいでもない。責めてはいけない。恨んでもいけない。ここ数日、必死に言い聞かせている。

「分かっています。ですが、甘やかすわけにはいきません」

 厳しい顔のまま、パンを小さくちぎって口へ運ぶビアンカ。

「もし星府軍にでも見つかれば。……その時あの子が私の手の届かないところにいたら。あの子は、確実に殺されます。……そんなことをさせるわけにはいきません。誰にも負けぬ強さと、狡猾さを身につけさせねば。あの方のためにも」

 ナイフとフォークを握りしめたまま、ビアンカは皿の中を睨みつけるように目を鋭くする。