ギルドのセンタービル内にある食堂で、ずそそそそー、と音を立ててパスタを啜りながら、アリアは今にもくっつきそうな瞼を必死に持ち上げていた。寝不足なのだ。
 
 あれから夜通しランスと話し合い、時々殴り合いをした結果、『一緒に頑張ろう』ということで話は纏まった。

 夫が急病だということで三日は休ませてもらったが、ギルド支部長という立場上、それ以上長くは休めない。アリアが面倒を見ていた三日の間、ランスの状態も落ち着いていたので、後ろ髪引かれながらもこうしてギルドに帰ってきた。

 それでもアリアが働いている間にランスの方に異変があっては困るし、また死にたくなられても困る。そんなことになったら今度こそ大泣きだ。

 一緒にギルドで暮らそうとも提案したが、ランスはそれを断った。自分で大丈夫だと判断するまでは誰とも関わらずにいたいというのだ。

 破壊の衝動とやらがいつ来るかも分からないし、ランスほどの剣士にギルドの街中で暴れられても大変だ。アストラならば、グリフィノー家は丘の上の一軒家。人が近づいてくることはまずない。だからアリアも了承するしかなかった。ただ、私のいないところで死んだらぶっ殺す、と脅しておいた。本人はそれでは脅しにならないということに気付いていない。

 それから、重要な取り決めをした。

 フェイレイとリディルには、この件については秘密にするということだ。

 ようするに目覚めなければいいのだ。その場合、何も知らずに暮らした方がしあわせだろう。もし万が一目覚めた場合。このときはアリアとランスが体を張って止める。すでにランスがいなかった場合、アリア一人でもやり遂げる。それだけは親である自分の役目だと、アリアは思っている。

 破壊の血がランスからの遺伝なのだとしても、フェイレイは間違いなくアリアの息子だ。彼の所業はアリアの責任。止めなければならない。

 もしそのときに二人ともいなかった場合。

 そのときはフェイレイに頑張ってもらうしかなくなる。