「なんなんだ、これは……」

「こんな天災、聞いたことがないね」

 この状態では、たとえ魔族が攻め込んでこなくとも全村で避難が必要だ。これがこのアストラだけで起きているわけではない。セルティア国全土、国境を接する国々、更には海を超えた大陸のすべてで同じ現象が起きているのだ。

 アリアたちは今、歴史上類を見ない天変地異の最中にいる。

 何が原因でこうなっているのだ。

 神の怒りにでも触れたというのか……。




「神の怒りじゃ」

 氾濫した川に呑み込まれそうになっていた家に住む老婆ケーラは、顔中をしわくちゃにして怒鳴る。

「都に御坐す惑星王……尊き皇帝陛下がお怒りになっておられるのじゃ! だからこんなにも世界が荒れ狂っておる!」

「惑星王は崩御なされましたよ。直に皇太子殿下が即位されると聞いていますが」

 ランスがやんわりとそう言うが。

「だからじゃ! その皇太子が皇帝にふさわしくないとお怒りになっておられるに違いない!」

「なにを戯けたことを。いいから行くぞ、もう道が崩れそうなんだ」

 アリアが背負ってやろうとしゃがんで背を向ける。

「戯けはお前らじゃ馬鹿者め! わからんのか、この天変地異が始まったのは皇帝陛下が崩御されてからなのだぞ。だから魔族も増えて! 次の皇子が星を導けていないからこうなっておることに何故気づかんのだ!」

 両腕を振り回して怒鳴りつけるケーラに、アリアもランスも顔を見合わせて困り果てる。

「魔族の襲撃が始まったのは、惑星王がご存命の頃からですよ」

「ご病気であられたのだ! そのせいじゃ!」

「惑星王とはいえ、人間だぞ。天候まで操れるはずが……」

「なーにをバチあたりなことを言うておるんじゃ! お前たち若い衆は知らんじゃろうが、その昔、他の惑星から侵略を受けた時期があった。もうワシらはその恐怖に震えるしかなかったというのに、先代の惑星王がそれを退けてくださった。まさに神のような力を持つお方じゃった……。その惑星王が我々民を見守っていてくださるからこその平和、その血が危機に瀕しているからこその星の危機。今この星には神……すなわち惑星王に相応しい方がおられない、これがその証拠じゃろう!」

 ケーラは暴風のあまり割れてしまった窓ガラスを振り返った。

 そこから吹き飛んできた雨がざあざあと床を濡らしている。