「ランス! ランス、戻っているか!」

「……ニクスだ。どうした」

 急いで玄関を開けると、コートから雨水を滴らせた自警団の団員が飛び込んできた。

「大変だ、ケーラばあさんの家が流されそうだ。ランス、手を貸してくれ」

「ケーラばあさん? まだ避難していなかったのか」

「あのばあさん頑固でよ! 死ぬならじいさんが死んだこの家で死ぬって言って動かねぇんだよ! 気が変わるかもしれねぇと思って後回しにしてるうちに川が氾濫して! 向こう側が海だ!」

「うん、分かった」

 ニクスの説明を聞きながらランスもコートを着込み、フードを被る。

「他の住民の避難は終わったのか」

 アリアもコートを羽織り、訊く。

「ああ。最後にハーネス先生と合流して終わりだ。俺と最後に出るって言ってたから、娘さんと一緒に荷物をまとめて待ってるはずだ」

「そうか。では急がないとな」

 フードを被り、きょとんとしているフェイレイを振り返る。

「フェイ、父さんと母さんはちょっと出かけてくる。お前は決して外に出るんじゃないぞ。窓にも鍵をかけてな」

「うん、かけてあるよ。昨日サリバンさんと一緒にかくにんしたんだ」

「そうか、偉かったな」

「うん」

「では、大人しく待っていろよ。帰ってきたらみんなでお出かけだからな、それまで荷物番をしていろ。お前の仕事だぞ。責任を持って果たせ」

「うん、わかったー」

 素直に返事をする息子の頭を撫でてやると、ニクス、ランス、そしてアリアは嵐の外へと飛び出していった。


 昨日の夜も凄まじかったが、今朝は更に風が強まった気がする。気を抜くと飛ばされそうなほどの強風だ。

「橋がもう濁流に呑み込まれてしまってる! ケーラばあさんのところに行くには山を迂回しないと!」

「分かった!」

 言いながら、アリアとランスは凄まじい光景を目にする。

 普段は踝ほどまでしかない水嵩の川が、もうどこが川なのか分からないほど巨大なうねりとなって村の中央を横断していた。川沿いに広がる穀物畑は、すべてそのうねりに呑み込まれている。その向こうにある家屋も濁流に呑まれ、もう屋根しか見えない。

 更に襲いかかるのが地震だ。大雨でぬかるんだ大地が怒りの咆哮を上げているかのように地鳴りを響かせ、立っていられないほど激しく揺れる。それにより、土砂崩れが起きて道が寸断されてしまう。