「でもさ、出店がいっぱい出てるみたいなんだよね。全部回るには早くいかないと夜になっちゃうよ!」

「ったく、お前は食い意地が張っているな。もう候補生だというのに……もう少し落ち着け」

 アリアはフェイレイの頭を小突く。

「ふふ、そうだね。フェイももう剣士候補生かぁ。頑張ったね」

 ランスは息子の偉業を褒め、赤い髪を撫でてやった。フェイレイは12歳で剣士候補生に昇格した。アリアの記録を塗り替える偉業である。

「頑張り過ぎだ。先日の任務ではベルクの大時計を破壊したんだからな。班長と『碧眼の剣士』を指導係にして、おまけに『戦慄の聖女』までつけていたのにだぞ。全員減俸処分だからな。ちょっとは反省しろ」

 どうもフェイレイは力が有り余っているらしく、頑張りすぎると周囲に被害をもたらしてしまうのだった。

 セルティアギルド随一と言われる『碧眼の剣士』ジェイドは、フェイレイの指導係として頭の痛い日を過ごしているらしい。

「はは……それは申し訳ないことをしたね。班長たちにはお詫びの品を持っていかないと」

「暴れん坊の息子を持つと本当に苦労するな」

 ジロリと息子を睨みつけると、「へへ、ごめんなさい」とバツが悪そうに頭を掻いた。

 反省しているのか良く分からない息子の態度に、アリアはため息をつく。

 フェイレイは過去に類を見ないほどの優秀な剣士に成長した。何人束になってかかっても跳ね返せるほどの実力者だ。そのうち皇都にあるギルド本部から引き抜かれるのではないか、という危惧もあるほどだ。

 そうなると星府軍への入隊の話も遠からず浮上してくるので、そのあたりの情報はアリアたちでガッチリ抑えている。息子からリディルの情報まで漏れるのは拙いからだ。

 ここ数年で情報産業が飛躍的に伸びてきている。

 遠く離れた地の情報が、一瞬のうちに手に入れることが出来るのだ。これからは今まで以上に慎重に、リディルの存在を隠していく必要がある。