星歴2027年、春。

 荘厳な鐘の音が、ギルドの街中に響き渡る。


 ギルドの街中にあるユグドラシェルの神殿は、小さな森の中にひっそりと佇む、黒石で創られた建物だ。

 神域らしく静謐な空気に包まれているここは、普段は任務成功の祈りを捧げに来る傭兵やその家族しか来ない、静かな場所だ。だが今日は街中から大勢が集まってきていた。みんな手に国花である白いラセリアの花のブーケを持ち、神殿に向けて列を作っている。

 グリフィノー一家も揃って白いブーケを持ち、列に加わった。

 並んで順番が来るのを待っていると、青空に乾いた音が響き渡った。同時に白い鳥が一斉に羽ばたいていく。

「お、祭りが始まったようだな」

 目を細めて白い鳥が青空を渡っていくのを見ていたアリアが呟く。

 今日はギルドの商業区で祭りが行われるのだ。ギルドだけではない。今頃は世界中がお祭り騒ぎとなっているだろう。

 それというのも、今日は星の民が崇める惑星王の成婚式があるからだ。セルティアでも王都フォルセリアでは一週間ほど祭りが続く。ほかの街ではそれぞれが企画した催し物に参加したり、こうしてブーケなどを神殿に捧げに行くことになっている。これは神殿側が強制しているわけではない。民が自主的にやっていることだ。

「え、もう? 早く行かなくちゃ。旨いものが無くなっちゃう」

「そんなにすぐには無くならないよ。街中の人に行き渡るように、商会が手配したらしいからね」

 逸る息子を押し止めながら、ランスは微笑む。