「その後、人気のない中庭で精霊と会話している姿が可憐だと噂になり、リディルさんをこっそり見守る男子生徒が急増している次第です。今のところ、大人しい性格の男子ばかりですので、実害はございません」

「あるだろう。そんなに見られたらリディル成分が減るだろう」

「リディル成分とはなんでしょうね。まあ、減りませんから大丈夫です。それに、見守る目が増えた分、嫌がらせが減っているのですから、ここは穏便に」

「む……そうなのか。しかし面白くないな。今後危険な輩が出てこないとも限らないじゃないか。やはりここは私が」

「教官方から、支部長の学舎入館は控えるよう通達を受けています」

「何故だっ!」

「過去のご自分の奇行を省みられればよろしいかと」

 身に覚えがあるだけに、アリアはぐっと声を詰まらせる。

 ではどうやって危険を回避したら良いのだ、と頭を掻き毟りながら考えた後、名案を思いついたとばかりに深海色の目を輝かせた。そして一枚の羊皮紙にガリガリと文字を書き連ね、最後にサインをして判を押した。

「これをフェイレイ=グリフィノーに渡せっ!」

「なんですか?」

「リディル=カーヴァンスに邪な気持ちを持って近づく輩はすべて排除せよという、リディル護衛任命書だっ!」

「……」

 ブライアンは表情を変えずにその任命書の内容に目を通した後、アリアを残念そうな目で見た。

 職権乱用ではあるが、支部長が暴れるよりは、まだフェイレイに任せた方が被害は少なくて済むか、とブライアンは任命書を受け取った。