ソファでランスに寄りかかりながら眠ったはずのアリアは、いつの間にかソファを占領するように横になっていた。薄く目を開けると、深海色をした大きな目がじいっとこちらを見ているのに気付いた。

「……ああ、フェイ。起きたのか」

 掠れた声でそう言うと、大きな深海色の瞳が嬉しそうに輝いた。

「おはよー、おはよー、母さん」

 言いながら、横になっているアリアの上によじ登ってくるのは息子のフェイレイだ。今年7歳になったのだが、周りの子たちよりも成長が遅いようで、まだまだ幼児の愛らしさを残した少年だった。

「母さん、俺、ちゃんといいこにしてた。だから子守唄うたって」

 アリアの上に重なるように寝転がり、足をバタバタさせるフェイレイ。

「ふふ、馬鹿め、子守唄とは夜眠るときに歌うものだ」

 息子の頭を撫でながら、笑みを噛み殺して言う。

「えー、いいじゃない、だって約束したもん。いいこいいこしてたら歌ってくれるってー」

「それは父さんが勝手にした約束だろう」

「したのー! 母さんとしたのー!」

「ははは、暴れるな。仕方ないな……では、ミスケープに行ってからな。そこで眠るときに歌ってやる」

「ほんとー? ぜったいだよ、約束ー」

 フェイレイは左手の小指を差し出す。アリアはその小さな小指に、自分の小指を絡めてやった。

「分かった。約束だ」

 そう約束を交わしたところへ、ランスが大きなリュックを背負ってやってくる。

「ああ、2人とも起きたんだね。おはよう」

「おはよー父さん」

「おはよう。今何時だ」

「8時だよ。3時間くらいしか眠れていないけど、大丈夫かい?」

「問題ない。自警団は村を回り終えただろうか。様子を見てこよう。もうあまり時間がない」

「そっちは俺が行くから。まだ魔族は山頂に到達していないようだから、2人はご飯を食べて待っているんだよ」

「ランスは?」

「俺は食べた。フェイ、母さんと一緒にご飯を食べて待っているんだ。分かったかい?」

「はーい!」

 フェイレイが元気よく返事をしたところに、来訪者が訪れる。

 叩き壊れるのではないかと思うくらい、激しく玄関ドアをノックされた。