それに、平民にとっては貴族たちからの視線や言葉の暴力もある。

 フェイレイはリディルの柔らかな手を取った。

 白くて、ほにゃほにゃで、力なんかひとつもなさそうなリディルの手。これが傷つくことになると思うと、フェイレイには耐えられなかった。彼がギルドに入ったのは『リディル専属勇者になるため』だ。決して彼女を危険に晒し、怪我を負わせるためではない。

「知ってる、大丈夫。……母さんに少し、鍛えてもらったし、それに、精霊たちに力を借りれるから……」

「鍛えたといっても護身術程度だ。魔族相手に通用する技ではない」

 アリアは珍しく厳しい目をリディルへ向けた。

「確かにお前も体術の筋はいい。だが、あくまでも人相手に限った話だ。……フェイは魔族相手でも身ひとつで戦いを挑める可能性があるから許可した。だが、お前は違う。フェイほど能力に恵まれていない。長く傭兵として働いてきた私が言うのだぞ。お前では無理だ」

「……そうだね。リディル、精霊士として働きたいというのなら……医療センターで働くことを目指してみてはどうだろう。精霊に愛されている君なら、きっと良い癒し手になるよ」

 アリアに続き、ランスは別の道を提案してみる。

 毎週怪我をして帰ってくるフェイレイを、心配そうに見ていたリディル。その目に気づいていないわけではなかった。きっとフェイレイを心配してのことなのだろうと思ったのだ。

 同じギルドでも、リディルも入院していた医療施設ならば、よほどのことがなければ外に戦いに行くことはない。戦闘で負傷した傭兵や学生たちの怪我を手当てをするくらいだ。戦時中や災害でもなければ激務ということもなく、体力に不安のあるリディルでも十分に働けるだろう。

「そうだ。それなら王都の学校にある医療科に編入して、勉強をすればいい。それなら母さんも許可出来るぞ。お前の成績は優秀だからな、きっと編入も認めてもらえるだろう」

 王都フォルセリアまでは歩いても半日の距離だ。ギルドにいるアリアやフェイレイとも連絡は取りやすい。何よりクラウス王のお膝元。治安も良く親としても安心だった。