最近は村の大人たちに怯えることなく挨拶するようになり、学校の友人たちとも楽しく遊べていたリディル。「ギルドに入りたい」という彼女の希望は、何事もなく穏やかに過ぎていたはずの日常に、突然爆弾が落ちてきたかのような衝撃だった。

 三人からの強い視線を感じて怯みそうになったリディルだったが、ぐっと唇を噛み締め、翡翠色の瞳に力を込めた。

「ギルドに入って、精霊士になりたい」

 か細くて小さな声だけれども、そこには強い意思が感じられた。家族みんなが気圧されるほどに。

「……何故、そう思ったんだい?」

 一番最初に衝撃から復活したランスが、優しい口調で訊いてみた。

 リディルは口をポカンと開けたままにしているフェイレイの顔をチラリと見て、それから顔面を蒼白にして震えだしているアリアの顔を見て、最後にランスの射抜くような空色の瞳を見つめた。

「……やって、みたいの」

 小さくて細い声は震えている。自分の意見を他に伝えることに慣れていない彼女の肌は、緊張でいつもより白い。それでもリディルは大きく息を吸い込んで言葉を続けた。

「えと……精霊たちとお話するの、楽しいし、仲良しだし、みんなの力に、なりたいし……一緒に、がんばりたいの」

「駄目だよ!」

 ガタン、と椅子を倒してフェイレイが立ち上がった。

「だって、ギルドって大変だよ? 毎日いっぱい走らされるし、腕立て伏せとか腹筋とか、体鍛えないといけないし、殴られることもあるし、怪我もするし、それに……色々、大変なんだよ……?」

 対魔族専門機関の扱きは軍の兵団の更に上をいく。厳しく鍛えなければ本番で何も出来ずに命を落とすことになるからだ。

 魔力である程度身体強化は出来るが、それでも人族より身体能力で秀でている魔族と対等に渡り合うため、基礎体力を始め、色んな技術を叩き込まれる。その過程で負う怪我は精霊召喚魔法で癒すことはなく、毎日痛みに魘されることになるのだ。