しばらく沈黙が続く。

 やがて、アリアが呻き声を上げた。

「……ま、まったくお前というヤツはっ……恥ずかしいことをサラリと口にするな!」

「そうかい? 大切なことなんだけどな」

 そう言って顔を覗き込むと、アリアはチラリとランスを見た後、赤くなった頬を隠すようにホットミルクをぐいっと一気に飲み干した。それから顔を背け、必要以上にフェイレイの頭をぐりぐりと撫で回した。赤い髪がぼうぼうだ。

「そんなにすると起きちゃうよ」

「こいつは一度寝たら朝まで起きん」

「そうだね、じゃあ」

 と、ランスはアリアの肩に置いていた手で彼女の頬を包むと、自分の方へ向けさせた。そのまま顔を近づけてくるので、アリアは慌てる。

「ま、待て、子どもの前だぞ」

「朝まで起きないから大丈夫だよ」

「ちょ、まっ……」

 批難しようとする声は唇で塞がれてしまった。

 空のような青い瞳の王子様風美青年は強引だ。その優しげな外見に似合わない押しの強さで、いつの間にか抵抗する気力も奪われてしまう。

 いつもは簡単に殴られてくれるくせに、こういうときだけは手加減してくれない。それに腹を立てながらも心のどこかでは悦んでいたりする。……認めたくはないのだけれど。

 湧き上がる感情を素直に表に出すのは悔しい。なのに、甘い唇が離れていくのは、少し寂しい。

「……お前、甘いな」

「ああ、ミルクに蜂蜜を入れたからかな」

「私のは甘くなかった」

「いつも入れない方がいいって言うから……。それとも、今日は甘い方が良かったかい?」

 甘さを含んだ空色の瞳に、アリアの深海色の瞳も揺らめく。

「……うん。今日は、甘いのが、いい」

「うん」

 ランスは微笑むと、更に唇を合わせた。



 ガタガタと鳴る窓ガラスの向こうは、本来ならば日の出の時刻。しかしこの日はまだまだ闇に包まれていた。