「最初は仕方ないよ。……そのうち、ね」

 昼の空を映した色の目が、意味深に細められる。その意味にきっと息子は気づいたのだろう。深海色の瞳を父と同じように細め、力強く頷いた。

 ギルドは良くも悪くも実力社会だ。

 そこでは年や経験年数は関係ない。真に強い者が認められる世界では、新参者はそれ相応に迎えられる。特にフェイレイは入学試験で良い成績を残してはいるが、辺境の村生まれの平民だ。それなのに親がギルド支部長で『セルティアの英雄』でもあるので、貴族の子弟たちには特に目を付けられている。

 今の状況を覆すには、同じ身分の者たちを味方につけ、なおかつ貴族の子弟たちにも認められる実力を示す他ない。

 息子は真っ向からそれに挑もうとしている。

 少し前までは自分を追いかけて歩いていた小さな息子が、心を折らずに立ち向かっていく。その姿に感慨深く思う父である。

 しかしリディルは怪我だらけのフェイレイを心配そうにジッと見ていた。



 次の週も、次の週も、フェイレイの怪我は絶えることがない。

 最初からセンスのあったフェイレイは周囲が焦るほどにみるみる成長していった。入学して三ヵ月後には、国防軍に推薦などとんでもない、ギルドの傭兵として育てると教官たちが判断するほど、その成長は早かった。

 だから教官たちも手加減しなかったし、単位を修得するごとに訓練の激しさは増していった。

 その様子を見ていたリディルは、ある決意を抱いていく。



 フェイレイが養成学校に通うようになって一年。

「父さん、母さん」

 フェイレイの誕生月だった5月が終わり、6月に入ったある日。家族全員が揃った食卓にてリディルが改まった顔で話し始めた。

「私、ギルドに入りたい」

 その言葉にランスもアリアもフェイレイも、持っていたフォークを取り落とした。三人とも目を見開いてリディルに注目している。