「リディル、野菜は父さんが切るから、少し休んでおいで」

「ううん、切る、だいじょうぶ」

 涙声だが、リディルはしっかりとそう言った。先程よりもゆっくりと野菜を切ってはいるが、涙で前が見えない状態では危ないだろうに。

 頭を撫でてやろうとしたけれど、ランスは今魚を捌いている途中だった。どうしたものかと少しだけ逡巡し、それから穏やかな微笑みを浮かべた。

「リディル、フェイの好物を知っているかい?」

 すん、と鼻を啜るリディルの手が止まる。

「……お菓子?」

「そうだね、あまーいお菓子が好きだね」

「あと、父さんの、シチュー」

「そうだね、シチューも大好きだね」

「父さんの作るご飯は、みんな、好きだよ。いつもおいしそうに食べてる」

「あはは、そうだね、フェイは食いしん坊だから、なんでも食べてくれるね」

 いつも満面の笑みでおかわりをする息子の顔を思い浮かべながら、ランスはうんうんと頷く。そして捌いた魚を皿に移した。

「ギルドの訓練はキツイから、いつもより食べないと身体が持たないかもしれないね。フェイはちゃんとおいしいご飯食べてるかなぁ。体も小さいから、栄養が足りてるか心配だなぁ」

 チラリと視線をリディルへやり、彼女がどんな反応をするか見守る。

 しばらくしてリディルは顔を上げた。

「……父さん、私、お菓子作り覚えたい」

「うん?」

「おいしいご飯作れるようになりたい」

「そうか、そうしたらフェイが帰ってきたときにおいしいご飯を食べさせてあげられるね」

 リディルの表情は無表情ではあるものの、ぱあっと明るくなったのが分かった。流れていた涙が止まる。