そういった経緯から、荒くれ者が多いと思われるギルドの傭兵の半分は貴族の子息たちである。もちろん嫡子ではなく、家には残れない二番目、三番目の子弟たちだ。

 ギルドを創ったのは自分たちであり、領地を護るという尊い使命を全うしなければならないという誇りがあるので、ギルドに籍を置く貴族たちはプライドの高い者が多い。

 武勲を立てれば嫡子でなくとも家名を上げられる。だからこそ、親たちは子に武術を叩き込むし、子も期待に応えようとするのだ。

 貴族としての純粋な誇りを持つ者ならば良いのだが、中には家柄を笠に着て平民を見下す勘違いをした者もいる。

 その者たちを納得させられるだけの長、それが『セルティアの英雄』と呼ばれる実力を持つアリアなのだ。

 彼女の支部長就任は、ギルド内では身分の差なく扱われる平民への不満を持つ、貴族を押さえ込む意図も含まれている。


「くそー、くそー、めんどくさいー、ランスのご飯が食べたいー!」

「一週間後には休暇を入れておきます。ですから仕事をしましょう。はいどうぞ」

 ブライアンはアリアの前に書類を並べ、金印を渡す。

「こちらで内容はチェックしていますが、必ず最後まで目を通してください」

「ああー、面倒だああああー! フェイと暴れたい、リディルにスリスリしたいー!」

「息子さんが長期休暇のときは一緒に休暇を取れるように調整いたしますので、まずは仕事をしましょうね。終わらないと休めませんよ」

 はい、はいとブライアンはアリアに判を押させていく。

 お飾りの名誉職とはいえ、職務怠慢と言われ舐められてはアリアがこの地位にいる意味はない。

 アリアは眉間に皺を寄せながらも、有能な秘書の手を借りて日々勉強中だ。