フェイレイが剣士養成学校に入学してすぐ、アリアはセルティア支部の支部長に昇格した。

 平均寿命が50年と言われるセルティアでも、二十代後半であるアリアの出世は異例中の異例だった。

 いかに『英雄』と渾名されるアリアでも、身分は平民である。しかも執行部に移動になってからまだ二年。経験が足りないという声もあったし、本人もそれを理由に断るつもりでいた。

 だが前任者の強い奨めがあったのと、国民の民意があり、就任に至った。

 そこには王の覚えが目出度いアリアがギルドのトップにいれば、有事の際に軍事介入がしやすいというギルド側と、国を裏切るなという国側の思惑があったことは周知の事実。

 アリアは「ああ、面倒だ!」と叫びつつも支部長として就任せざるを得なかった。



「くそっ。いらん揉め事があるからこんなことに……」

 ギルドの街の中央に聳え立つ、鈍色に輝くセンタービル最上階の支部長室。

 革張りの椅子に腰掛けながら、アリアは子どものように口を尖らせて不貞腐れていた。

「いっそのこと国の軍部に我々を組み込んでくれれば良いのに」

「それは難しいでしょう。そうなれば魔族絡みの有事だけでなく、国同士の諍いにも介入することになりますし、そもそものギルドの成り立ちから考えても、無理です。それよりも仕事をしましょう。こちらの書類に判を」

 アリアの秘書を務める灰色の髪の男、ブライアン=サーフェスが卓上に重なった書類の山に手を添える。

「んあー、分かっている」

 アリアは革張りの椅子に背を預け、ぐるぐると回る。


 魔族討伐専門機関はあくまで民間企業。有事の際には国とともに働くが、魔族による戦争のみだ。国同士の諍いには参入しない。

 ギルドの成り立ちは、皇都の貴族が私兵を鍛え、領地を魔族から護っていたのが始まりである。

 その貴族に賛同した貴族たちが結集し、遠く離れた国まで結びついていった。

 しかし皇家──というより、皇家を仰ぐ神官たち──としては、大きな力を貴族たちが有することをよしとしないわけで、国のための軍の他を持つことは許されず、魔族専門の軍隊は貴族から切り離され、民間企業として独立した。