「ふーん。ということは北原くんにうまく丸めこまれたわけね」
登校している人が少ないいつもより早い時間、まだ他に人がいない教室で昨日の放課後のことを伝えると美姫はそう言ってはあとため息を一つ。
それから私の横に立っている北原君をじっと見た。
「丸めこむだなんて誤解だよ」
北原君がふわふわバージョンの笑顔を崩さず美姫に返すと彼女はきっと目をつり上げて顔をそらす。
「どうだか。今度またなつが困るようなことが起きたら絶対に阻止するから」
「絶対守るよ。今も恋人になっても、ね」
「北原君っ」
肩をつかんで引き寄せられる。
離れようと体を動かしてもびくともしない。
「先輩達は可愛い犬系なんて言ってたけど、中身はとんだ狼なんてすっかりだまされてた」
体を必死に動かし続ける私と離さない北原君のほうを見た美姫はため息混じりに呟くように言う。
「好きな人が相手なら誰だってそうじゃない?」
「っ!」
耳元で北原君の声が聞こえたと思ったら左のほっぺたに柔らかい感触がして、美姫の目がまん丸に見開かれて。
「あーっ! あんたみたいに手の早いやつやっぱり認めてなんかやらないから!!」
少しずつ人の声が外側から増えて聞こえ始めた朝の教室に、私と北原君を離そうとする美姫の叫び声が響きわたった──。
──北原君は可愛いと言われる男の子。
だけど本当は可愛いだけじゃない、違う顔を持つ男の子みたいだ──。

