『佐藤茂雄(さとう・しげお)さんですか?
お母様の正美(まさみ)様が黒木総合病院に入院されました』




電話して学校前に呼んだタクシーに乗りながら

俺はずっと電話のかかってきた携帯電話を握りしめていた




あの日―――高校の卒業式

俺は大きな鞄に必要最低限の荷物と金を持って

挨拶もしないで家を飛び出した



挨拶をするもしないも

出来ない状況だった

だって前日

俺は母と思い切り喧嘩したから



理由は今考えればわけわかんねぇ理由

母の卒業した大学に俺が行かないから

ただそれだけで責められた

俺は必死で言い返した




『俺は操り人形じゃない』

『もうあんたの言うことを聞くのは嫌なんだ』




他にも色々言っていた気がするけど

何度も繰り返していたのはそれだけ




『出来損ない』

『どうしてわたしの言うことが聞けないの』




母も色々言っていたけど

それしか覚えていない