私が東京の大学へ進学したのは、将来の目標の為だった。
ずっと野球を通してスポーツに関わってきたことで、その楽しさや感動を伝えるような仕事をしたいと思っていた。
出版社なり新聞社なり、マスコミ関係への就職を目指すならと、高校の先生にも薦められて、東京の大学への進学を決めた。
そして、進学と同時に出版社でのアルバイトを始めたのだ。
たまたま求人があったのが、今アルバイトしているコスメ雑誌『La Belle 』(ラベル、フランス語で『美女』の意)だ。
読者アンケートの集計や、撮影時の車やお弁当の手配、コピー取りと電話番などの雑用がほとんどだが、スポーツ雑誌でなくとも、ここでの経験は将来きっと活かせるはずだと思う。

本来の私なら、スポーツ関係の記事など張り切って手伝いを買って出ただろう。

しかし、私は彼に直接連絡することが、出来なかった。
送られてくるメールへの返信もしないままで、都合良く連絡できるはずもなかった。

仕方がなく、取材の申し込みを、父と後援会を経由して、監督に許可を取り、本人に伝えてもらった。

彼の返事は、イエス。
しかも、「九月最初の週末でよければ東京まで行きます」という前向きな回答だった。

その返事に、思わずため息を落としている自分に気づく。
仕事に私情を挟んでしまっている。
そのことが、ひどく情けなかった。