花火大会会場に向かい、VIP席のチケットを提示すると、スタッフが特別席に入れてくれた。冷房完備、トイレ付、冷蔵庫には自由に食べてよいお酒、おつまみ、デザート……いたれりつくせりだ。

僕たちは、花火が打ちあがるのを見て、素直に喜んだ。隣のサンタは、やっぱり赤めのアロハシャツを着てくつろいでいた。とても楽しそうだ。その表情は穏やかで、目もとのしわが垂れ下がって、「理想のおじいちゃん」的になっている。僕は、「サンタ」のそんな表情に、亡くなった祖父を見た。

最後の一発が打ち上げられるとアナウンスされた。特別に美しい花火なのだろう。僕たちは、じっと目をこらした。花火は、ひゅるひゅると打ちあがり、青、緑、赤など多彩な色の火の大輪の花を咲かせた。サンタが叫んだ。

「玉や~!!」

その瞬間、そっと前脚で戸を開けて、礼儀正しいトナカイが入ってきた。

「タマ!!来てくれましたネ。それでは、帰りましょウ」

「サンタ」は、トナカイの背中にまたがった。橇は重労働なので、夏は使わないと聞いたっけ。とにかく「サンタ」は、にっこりと笑ってかんたんな挨拶をすると、真夏の夜に旅立っていった。

 「ねえ」

響子が、貸してもらった浴衣の乱れを直しつつ言った。

 「プレゼントもらったの、私たちの方だったかもね」

 「そうだな」
 
響子がちょっと笑った。

 「私からも、プレゼント」

 そう言うと、響子は背伸びをして僕の唇にキスをした。そのとき、真夏なのに粉雪が降り始めた。真夏の雪の中で僕たちはいつまでもお互いのぬくもりを確かめ合っていた。


(了)