「―――リヒト」



まだ夜が明けきらない、薄暗い冬の朝5時。


ベッドの上に横たわって微かに寝息を立てている裸の背中に、私は声をかける。



「リヒト」



もう一度、呼んでみた。


リヒトは動かない。

きっと、昨夜のライブの疲れで熟睡している。


だから私は、安心して近づくことができる。



ベッドを軋ませないように、そろそろと腰かける。


お風呂あがりの濡れた髪の先から雫がこぼれて、くしゃくしゃのシーツに水玉模様を作った。



背骨が浮かび上がった滑らかな背中。

シーツの上に寝乱れた柔らかい髪。


絵画の題材のような美しい光景を、私はうっとりと眺める。



しばらくそうしていると、リヒトが低く掠れた声でうめいて、寝返りを打った。


顔は向こうに背けたまま、身体半分がこちらを向く。



リヒトはどこもきれいだけれど、その中でも横顔がいちばん美しいと思う。


長い睫毛、細く通った鼻梁、薄い口唇、尖った顎。



目を奪われずにはいられない、美しい横顔。


決して私を振り向かない、冷たい横顔。