鋭いな、と思った。



たしかに私は根なし草だ。


リヒトを追いかけると決めたとき、私は家族も友達も捨てた。

自分の存在の根拠となっていたものを、リヒトと一緒にいるためだけに、全て捨てた。



でも、リヒトは私の根にはなってくれない。


だから私は根なし草なのだ。



「………それでも、いいの。リヒトがいてくれさえしたら、それで」



私は微笑んで、ルイの手を振り払った。


それから、一度も振り返ることなく、駅まで走った。


後ろからルイが追いかけてくる足音が聞こえたけれど、きをつかっているのか、追いついてくることはなかった。



自分の吐く息が白く立ちのぼり、視界がぼんやりと霞みがかる。



それでいいの、と私は心の中で何度も繰り返した。



私は、今のままでいいの。


私にとってはリヒトが全てなんだから。


私の世界はリヒトが中心で、リヒト以外の存在は、いらないんだから。




―――それなのに、ルイの言葉が繰り返し、繰り返し、耳の奥でリフレインする。



『俺を好きになってくれませんか』


『どうしてそんなに寂しそうなんですか』


『俺ならそんな顔させない』


『あなたたちの関係はおかしい』



やめて。


私はそんな言葉、聞きたくない。


そんな優しい言葉は、いらない。