「………………」


いつも通りに朝が来て、彼女が笑って、そしていつもと同じに帰ってゆく。ちいさく手を振って、くるりと背中を向けた彼女が扉の向こうへと消えてゆくのを見届けて、目を閉じる。

せめて僕が彼女と同じ言葉を話せたのなら、気をつけて帰るんだよと、そう一言投げかけることも出来るのに。せめて僕の両腕が、誰にも傷をつけないような、彼女と同じ真っ白な柔い指を持っていたのなら、彼女が僕にしてくれるのとおんなじように、その頬をそっと、そうっと撫でることが出来るのに。

もう何度目かもわからないそんな溜め息を、埃まみれの部屋の隅に投げ捨てては、朝を待つ。毎日、毎日、そうして過ごしている。

それでもまた朝が来れば、彼女の足音が、僕に穏やかさを運んでくれるだろう。目を閉じて、そっと、そうっと、朝を、待っている。