「えっ!?ヒツジちゃん!?」



駆け出した私を止めたのは、私が出ていこうとした扉とは反対側の扉の方から聞こえてきた、驚いたような声だった。


…………ん?


今、私呼ばれたよね?


今急いでるのに…。


後ろを振り向くと、全員が全員、黒板に近い、私がいない方の扉を穴が開くんじゃないかと思うほどに見つめている。


そこにいる誰もが目を見開いて。



「……んだよ、クラス間違えたか?」


「え、えっと…その…」


「あっ!?」



思わぬ来訪者にクラスの全員が唖然とするなか、私も思わず声をあげてしまった。


クラスの入り口に立っていた人物…。



「ふ、藤崎くん…!?」


「あ、なんだ、いんじゃんか。
これ、お前のだろ」



そう言って藤崎くんが手に持っているものを目線の高さでかざす。


淡いピンク色の、見覚えのある携帯。



「私のです!でも、どうして…」


「何言ってんだよ。
置いてったの、お前だろ」



あぁ…そういえばあの時藤崎くんにプリント見つけてもらって…そのあと、気付いてくれたのかな?



「すいません…ありがとうございます…」


「いや、別に」



出来るだけ手だけを伸ばして、不自然に思われないような距離まで頑張って近づく。


そして、そっとそれを受け取った。


私が携帯を受け取ったのを確認した藤崎くんは、何も言わず後ろ頭を掻きながらスタスタと去っていく。


やっぱり…怖いけど、いい人なんだよね。


藤崎くん。