どうしてこのコは、こんななンだろ。

目を覚ましてみたら。

縛られていて。
目隠しされていて。
車に詰め込まれていて。

怖いだろ?
泣けよ。

酷いだろ?
怒れよ。

泣いて、怒って、俺を非難する言葉を声の限りに叫んでくれよ。


「ねェ、アオ?」


どうしてこのコは、こんななンだろ。

どうしてこのコは、こんな時にまで俺の名を呼ぶンだろ。

何も起こっていないかのように。
今が、あのマンションですごした穏やかな日常の、延長上にあるかのように。


「ねェ、アオなンでショ?
私、おなかすいた」


もうヤメテ。
幸せな夢を思い出させないで。

君を元の世界に戻せなくなる。
君を連れ去ってしまいたくなる。

その行き着く先が、地獄だとわかっていても。


「俺は『アオ』じゃない」


泣きだしそうに顔を歪めて、アオは言う。

この表情は彼女には見られない。

だから声だけは。
言葉だけは。

冷たく、非情に。


「遊びは終わりだ。
おまえは…
もう、いらない」