「あっ、あの後ろ姿………」



教室から鞄を取り、いざ帰ろうと廊下を歩いていると見慣れた後ろ姿が目に止まった。


見間違えるはずもない、わたしの好きな人の後ろ姿。



ちょうど下駄箱で橘くんが靴を履き替えているところだった。

今から家に帰るみたい。



こんなチャンス滅多に巡ってこないよね?


声掛けたら一緒に帰ってくれるかな……?


図書室以外でも会ったら声を掛けるとさっき決めたばかりなのに、結局は勇気がでない。



廊下ですれ違って「おはよう」ならまだしも、「一緒に帰ろう」はまだハードルが高すぎる。


下駄箱に顔を半分隠して、橘くんを見つめることしかできない。


すぐそこに居るのに、一声掛ければ気づいてもらえるのに………。



あっ………!


靴を履き終えた後は、本を片手にさっさと外へ出て行ってしまう。