「旭陽、こっち見て」


「ゆっ…………」


ふっと百合ちゃんが微笑んだ瞬間、橘くんの頬に手を添えた。


そしてそのまま、吸い込まれるように2人の距離が縮まっていく。


「たち……ばな………く………」


ようやく出たか僅かな声もやっぱり橘くんには届かなくて、空に弾ける花火の音に掻き消された。


わたし今、ちゃんと呼吸できてる?


やっぱりこれは夢だよ。

タチの悪い神様のイタズラ。


そうじゃなきゃ……こんな………。

こんな………。



橘くんと百合ちゃんの間に距離はもうなかった。


大輪の花火の下で、橘くんとキスができたらロマンチックだなって思ってた。

でも、そんなのは起こりえないただの夢の話。


花火の下でキスをしたのは誰?



橘くんの隣に居るのはわたしじゃなかった。