隣を歩いている橘くんをちらりと盗み見れるこの距離がわたしは好きだ。


ここからしか見れない橘くんがたくさんあるって知ってしまったから。


ふわりと髪の毛が揺れ動くたびに届く甘い香りとか、

真っ直ぐ前を見据える眼差しとか、

唯一知ることができるのはこの場所だけ。


だから、譲りたくないと思った。

ここから見える景色は他の誰にも教えずわたしだけのものにしたい。


欲張りだけど、贅沢だけど、独り占めしたいんだ。


それに、結婚の約束はただの嘘だったけど、百合ちゃんが橘くんに恋をしていないとは完全に言い切れない。

橘くんを譲りたくないばかりにあんな嘘をついたんじゃないかって今になって思う。


もしもわたしが百合ちゃんと同じ立場だったら、橘くんを取られないためにも嘘をついていたと思うから。



明日、橘くんに彼女ができない保証はない。

そんなことを考えた日があった。


今だってもちろん考えは変わっていないし、橘くんの人気を考えるとありえない話ではない。


だからこそ今を、一瞬を、大切に過ごしていきたいと強く願っている。


花火大会で少しでもわたしと橘くんの距離が縮まるように。


好きな人の好きな人になれるように。