「あはは、やっぱ夏にホットコーヒーはありえないよね。ごめんごめん」


自業自得で失敗したのだけど、受け取って貰えないのはショックだった。


無理やり引き出す作り笑顔ほど難しいものはない。

こんな変なこと続けてたら橘くんと両想いになれる日が遠退いていくだけじゃん。

かっこ悪いな、わたし。


「ふっ……キミは本当に変わってる。俺のために買ってきてくれたんだろ?だったらとりあえず貰っておく」


手の中にすっぽりと収まっていたコーヒーが軽々と消えていった。

もちろん手に取ったのは橘くん。


「ブラックはたしかに好きだ」と笑ってくれた。


季節に合わないもの買ってきちゃったのに、やっぱり橘くんは優しいや。

普通なら引け目でわたしを見たっていいくらいなのに。



にやけそうになる顔を必死で抑えて、


「次は冷たいブラックコーヒープレゼントするから待っててね」

とさっきまでの暗さを弾き飛ばした、


「期待はしないからな」


「ひっどーい」



百合ちゃんに負けたくない。

百合ちゃんみたいになりたい。

百合ちゃんみたいに、橘くんと話したい。


そう思っていたけど……………。


わたしはわたしのままでいいんだ。


以前、橘くんが「キミはそのままでいいと思うよ」と言ってくれた言葉を思い出した。

まさに今、改めてわかった気がしたよ。