「…………」

「…………」


町から帰ってきてから気付いたけど、玄関前にまったく知らない人がいた。


その人もわかってはいるのか、ただ私をジッと見てるだけ。それもそうだ。その若さから言えば、初対面には間違いないから。


ただ、言葉が出せないことに間違いはないから、私が話しかけても無駄かもしれない。でも、どうしても放っておくことなんてできなかった。


だって、私も同じいきさつでおばあちゃんと家族になったんだから。


「こ、こんにちは。どうしてこんなところにいるのかな?」

「………」

「とりあえず、ここにいても仕方ないから。お家に入ろっか? あ、抱っこするけどだいじょうぶだよ? なにもしないし怖い人じゃないから」


おはる屋では子ども相手に商売もするけれど、実際に面倒を見るとなると話が違う。


ましてやそれが、大きめのかごに入れられた赤ちゃんとなれば未知の世界。


まだ葛西さんの赤ちゃんは生まれてないし、間近に接したことはないから何をするにも怖い。かといって、この7月の炎天下。かごが木陰に置かれていたとはいえ、赤ちゃんをいつまでも外に置くわけにはいかない。


恐る恐る手を伸ばして、あ、手を洗ってからの方がいいかな? って気づいて。綺麗なタオルを引っ張り出し赤ちゃんの体に手を差し入れて慎重に抱き上げる。


「わ……結構重いな。でも……」


なんだか、柔らかくてあったかくて。なんだろう……胸の奥ががむずむずする。きっと私の顔は緩んでいただろうと思う。


だけど……


一枚のメモを見た私は、何もかもが凍りついた。


“伊織さんへ――
育てられなくなったので父親のあなたへ託すことにしました。美鈴といいます。
どうかよろしくお願いします。――美里より”