指先から垂らした線香花火が、ちりちりと音を立てる。
 水を溜めたバケツの側で、しゃがんだ美月の顔に、花火の光がしわくちゃな影絵を作った。


 ──その日の夜、新しくやって来たシンボルツリーを背に、美月と二人で花火に火をつけた。
 民家にはそれぞれ明かりがともっていたが、漏れ聞こえる声や犬の鳴き声もなく、信じられないぐらいの、静かな夜だった。

 美月は浴衣を着ていた。
 地域の盆踊りのために、最近になって新しく買ったものだったのだが、運悪く、当日は雨が降った。その後、予備日として考えられていた翌日までも雨が止まず、とうとう延期から中止になってしまった。

 それを聞いて残念がっていた美月を思い出し、今年はもう着ることもないだろうということで、押し入れの奥にしまわれていた浴衣だったのだが、私が花火をする折りに着たらどうかと考え、探し出して美月に見せた。

 浴衣は、藍色の地に桃色の知らない花があしらわれていた。帯はかき氷のような、水色と白色の混ざりあった色合いだ。私が選んだ柄だった。

「落とさないように」

「うん」

 線香花火の小さな玉に神経を集中し過ぎて、美月の黒目が真ん中によっている。

「息はしろよ」

「うん……」

 どうやら、本当に息を止めていたようだった。

 ちりちりとその線香花火の柔らかい玉の中から、か弱い光の結晶が、出たり引っ込んだりしていた。

 開封された手持ち花火のセットだった。線香花火を残し、玄関の荷物の片隅に埋もれていた。
 湿ってはいないか、と心配したが、どうやら取り越し苦労のようだった。

 線香花火は、確かに私たちの目の前で、ちりちりと音を立てて燃えていた。