ギクリとしてとっさに謝ったけれど、如月くんは、

「まぁ、地味で存在感ない者同士なら気付かれねーだろうし、いいけど」とあっさり言った。

意外にも怒ってはいないようでホッとする。けれど。


「でも、ひとりになりたかったんだもんね?」


私がいたらきっと迷惑でしかないし、やっぱりここにはいない方がいいか……。

そう思って、後ろ髪を引かれつつ重い腰を上げようとすると、冷ややかな声が投げられる。


「メガネクラならいてもいなくても一緒だ」

「あ、そっか……あは」


ですよねー。空気みたいなものですもんねー。

嬉しいような、悲しいような……。

さりげなく毒を吐かれて、膝を抱えたまま泣き笑いの顔になっていると。


「ちっせー“ナノ”だし? 別に気にならねぇよ」


彼はふっと小さな笑みをこぼしながらそう言い、空を見上げて眩しそうに瞳を細めた。


トクン、と心の奥が反応する。

めったに呼ばれない名前を口にされただけで、舞い上がっちゃいそうなくらい嬉しい。

どんな形であれ、こうしてそばにいられるならそれでいい。

地味な女でよかったな、なんてことすら思ってしまった。