ここはもう別のことを考えるしかないと、私はバッグから文庫本を取り出し、眼鏡を押し上げる。


「ごめん、文ちゃん! 私はしばらく本当のメガネクラになるから」

「はー?」


意味がわからないというように眉根を寄せる文ちゃんだけど、私は構わずページをめくり始めた。


今はなんとか読書で気を逸らすしかない。

明日はたしか席替えするって言ってたし、如月くんと席が離れれば、もう少し心に余裕が出来るはず。

そうすればきっと、文ちゃんに頼らずとも、もっと冷静にいろいろ考えられるよね。うん、明日までの辛抱だ!


……そう思っていたものの。



「これって奇跡だよね」

「笑いの神様が降臨したな」

「いや、地味神様じゃね?」


翌日、くじ引きで席替えをした後、クラスのあちこちからヒソヒソ話と笑う声が響く。

小さい声でも皆が同じこと話してれば聞こえるんですよ。

だから、隣の席になった如月くんの耳にも絶対届いているはずで……。


ちらりと横目で見やった私はギクリとする。

彼は腕組みをしながら俯いていて、きっと私にしか感じないのであろう負のオーラを醸し出していた。