「助けてくれて、ありがとう」


自然と柔らかな笑みがこぼれて、ぺこりと頭を下げた。


『コイツに手出すんじゃねーよ』

そう言って、私の肩に回してきた手を退けてくれた。

あの時のことを思い出すと、まるで私が如月くんのものになったみたいに感じて、ドキドキが止まらない。

もちろん、彼にそんな想いがあって言ったことではないとわかっているけど。


一度私を見た如月くんはすぐに前を向き、少し険しさが和らいだ表情で、当然のように言う。


「別に。女を傷付けさせるわけにいかねぇからな」


──トクン、と優しく胸が鳴った。

こんな私だけど、ちゃんと女扱いしてくれるんだ……。

たったこれだけのことで、ものすごく嬉しい。

にやける口元を必死で結びつつ、もうひとつ嬉しかったことを思い出す。


「あの時、“菜乃”って呼んでくれたよね」


調子に乗って、ちょっぴり彼の反応を楽しみたくてそう言ってみた。

すると、一瞬ピクリとして真顔になった如月くんは、珍しく視線を泳がせながらボソッと呟く。