さらに、棚についた方とは逆の手でズレていた眼鏡をそっと直され、その優しい仕草に私はもう放心状態。


「わ、かりました……」


気が付けば、すんなりと首を縦に振っていたのだった。


如月くんは満足げに見える笑みをほんの少し浮かべ、私からすっと離れた。

そして、何事もなかったかのように再び本の整理を始めながら、ぼそっと何かを呟く。


「……チョロイな、妄想女子を言いくるめるのは」

「ほぇ?」


よく聞き取れず、いまだ踊りまくっている心臓を抑えながら首をかしげる。


「今、何て……」

「何でもない。それより敬語やめろ。同い年に敬語使われんの気持ち悪い」

「あぁっ、すみま……ご、ごめんなさ……じゃなくて、ごめん」


なぜかテンパりながら何度も言い直すと、毒舌王子はぷっと吹き出した。

初めてお目にかかる、くしゃっとなった無邪気な笑顔に、私の胸がきゅうっと鳴く。


わ……いい笑顔。如月くん、こんな顔もするんだ。

一瞬だったけれど、すごく貴重なものを見た気分。


「地味なくせに、変なヤツ」


不思議と嫌味に感じない呟きを残して仕事をする彼を、私はしばしの間ぽかんと見つめていた。