ふと、この間バッグを拾ってくれた時のことを思い出す。

ソウくんみたいに、さりげなく優しくしてくれた。

如月くんがどんな人なのかも、もっと知りたいな……。


ぼんやり考えていると、担任が教室に入ってきた。

プリントを配り始めようとする姿を見て、身を乗り出していた文ちゃんは、椅子にしっかりと腰を下ろして言う。


「とりあえず、菜乃が一歩前進したみたいでよかったよ」

「うん。三次元のイケメンは想像よりずっと刺激的で、どうやら私はM属性らしいってこともわかったし!」

「ぶっ」


意気揚々と言うと、誰かが吹き出した……気がした。

ん? 今の誰?

キョトンとして周りを見回すものの、隣の男子はまだ席についていないし、目の前の如月くんは俯いていて……ちょっぴり肩が震えてる。

え、もしかして笑ってる!?


「まぁそうだろうね。菜乃がSだって方が怖いし」


如月くんの異変に気付いていない文ちゃんが笑いながら言い、前を向いた。

目を丸くしたままの私は、如月くんの背中にくぎ付け。だけど。

プリントを配られて私に渡す彼は、いつもの無表情だった。


……気のせい?

UFOでも見たような不思議な気分のまま、私は化学の授業中ずっと彼のことを気にしていた。