ようやく力がみなぎってくるのを感じていると、何かを思い出したように、「あ」と音哉が声を漏らした。


「長話してる場合じゃなかったか。こうやってる間にも、お前の愛しい彼女が琉依にとられるかもしれねぇってのに」

「……は?」


聞き捨てならない一言に、ぎゅっと眉根を寄せる。

困惑する俺に、音哉はまた意地悪な笑みを浮かべて、こう教えてくれた。


「今日の夜、神社の前の赤い橋で告白する、って琉依が言ってたぞ」


──ドクン、と重い音を立て、心が焦りだす。

菜乃が告白を受け入れたら、本当に俺の出る幕がなくなってしまう。

今行かないでいつ行くんだ?


「どーすんの?」


俺の顔を覗き込む音哉をしっかり見据える。


「……悪い、行ってくる」


もう揺るがない意志を胸に答えると、目の前の顔が満足げにほころぶ。


「おー、俺のことは気にすんな。また連絡するから、今度ゆっくり会おう」


もう、音哉も手が届くところにいてくれるんだな。

改めて嬉しさと感謝が込み上げ、俺の顔にもやっと笑顔が生まれた。


「音哉……ありがとう」


優しく笑って頷く彼にそれだけ告げると、すぐに赤い橋に向かって駆け出していた。

あの祭りの日から、もう一度やり直すために。