──しかし、俺を待ち受けていたものは、目を疑いたくなるような光景。

来るのが遅すぎたか……。

抱き合うふたりを目に映しながら、俺は盛大に肩を落とした。


何も見なかったフリをして、この後一緒に回ることなんてできそうにない。

鉛が付いたみたいに重い足を動かし、俺はひとり賑やかな通りを引き返していった。


しばらくして琉依から電話が掛かってきたが、鳴り続けるスマホをポケットに押し込む。

何て話したらいいのかもわかんねぇよ……。


「これが失恋ってヤツか……?」


この苦しさは初めて知ったなと、なんだか客観的に思いながら呟いた。

苦しいけど、ライバルが琉依なら諦めもつく。


ただ、埋まりかけていた心の穴が、また元に戻ってしまったような気がした。

自分にはない、アイツの純粋さや健気さに、いつの間にか癒されていたんだな。

何も知らない菜乃だからこそ、俺は少しずつ素をさらけ出せていたのか。


俺がつまらない男になった原因のひとつは、絶対お前のせいだよ。

お前に惚れちまったからだ──。