好きだからキスして何が悪い?

音哉は、自分は望まれて産まれてきたわけではないのだとずっと思っていて。

彼にとって、それはコンプレックスみたいなものだったという。


『でも奏のおかげで、俺の存在を認めてくれるヤツもいるんだよなって、自信が持てた気がするんだよ。ありがとな』


音哉はすげぇあったかい微笑みを浮かべて、そう言ったんだ。


礼を言われる筋合いなんてねぇよ。

言わなきゃいけないのはこっちの方なのに。

俺が受験を控えていることも気にかけて、身代わりになってくれたんだろ?

どこまで弟想いなんだ──。


その時、俺は初めて人前で涙をこぼした。

感謝とか悔しさとか、一言では表せない、いろいろな感情が混ざった涙を。

優しい兄貴は、笑いながら俺の頭をくしゃくしゃと撫でたっけ。


しかし、親が出てきたせいで事が大きくなり、音哉は停学処分にまでされてしまい……

それから間もなくして、自ら退学してしまった。


『かったるくなったから、学校辞めて働くことにした』と連絡があったけど、俺はそれを鵜呑みにすることはできなかった。

だって、『母親のために、高校だけはちゃんと卒業するつもりだ』と、音哉はよく言っていたから。