好きだからキスして何が悪い?

親父にとって、この時だけは音哉の存在は好都合だったんだろう。

俺を落ちぶれさせたのは音哉のせいだと、ずっと彼を疎ましく思っていたようだったから。


俺は手の平を返して、自分がやったと主張した。

だが、殴られた当の本人も、俺なんかより音哉を敵視していたために、やったのはアイツだと言い始める。

俺が何度違うと言っても聞き入れてもらえず、専務の怒りの矛先は音哉に向かった。


でも、きっと要領の良い音哉なら、この危機を乗り切れるはず。

……そう信じていたのに。


『俺がやりました。奏は何も悪くありません』


彼が口にしたのは、そんな思ってもみない言葉だった。

まさか、こんな俺をかばうだなんて。

ケンカにも、学校からの圧力にも、何にも屈したことのなかった音哉が、俺のために──。


『どうしてあんなこと言ったんだよ!? 俺なんかかばう必要ないのに……!』


騒動の後、黙っていられるわけもなくそう詰め寄ると、音哉は軽く笑って言った。


『お前、俺がバカにされたからアイツをシメたんだろ? だから、そのお礼みてーなもん。
……嬉しかったんだよ、俺のためにキレてくれたことが』