好きだからキスして何が悪い?

不倫なんかしていた親父も、知らないフリをしていた母親も、その時の俺にはふたりの思考が理解できなかった。

もしかしたら、理解したくなかっただけなのかもしれないけど。


怒りや悲しみや、複雑な感情でどんどん心は荒んでいく。

そんな俺の、一番の理解者になってくれたのが音哉だ。


辛い境遇で育った彼にとって、俺は憎むべき存在になってもおかしくはないはずなのに、そんなことはまったくなく。

悩みを聞いては励まし、本当に弟として接してくれた。

そんな音哉に懐くようになっていた俺が、不良グループの中に入るのはもう必然的だよな。


俺が左耳にしているアメジストのピアスも、音哉が付けていたものの片割れ。

『兄弟の印だ』なんて言って、強引に俺の耳に穴を開けさせ、付けられたものだ。

彼が高校に入り、さらにはリーダー格になると、いつの間にかそのピアスの色がグループ名にまでなっていて、今に至る。


音哉は、意思もケンカも強くて、触れれば血が流れそうなくらい尖んがっていたくせに、女子供や弱い人には優しくて。

それがすげぇカッコよく思えて、俺の自慢の兄貴だった。